「幻覚」と違い、「知覚」はみんなが持っている感覚
ケンケン(以下K)「前に「記憶色」の話をしたら、予想外に反響が多かったので、今日は「知覚」の話をしてみるのじゃ」
むーちゃん(以下M)「今日のタイトルの「見えてなかったモノが写る」って、ひょっとして心霊写真の話じゃないでしょうね?(笑)」
K「そういう話ではないのじゃが、むーちゃんはむしろその逆パターンの方が怖くない?」
M「逆というと、「見えてなかったモノが写っている」のではなく「見えていたモノが写っていない」ってことね。確かにそっちの方が怖いですね(ブルブル)」
K「そう言うのは「幻覚」と言って、一部の人にしか見えないモノじゃが、今日話すのは誰もがもっている「知覚」の話なのじゃよ」
カメラという光学記録装置は、物理的な世界しか撮れない
M「うーーーん、随分と難しいタイトルですね(笑)」
K「簡単に言うと、デジタルカメラで撮影すると、レンズを通ったモノはイメージセンサー(撮像素子)により全てが記録されると言う事じゃ」
M「そんな当たり前の事に、難しいタイトル付けないでちょ!(笑)」
K「すまん!すまん!ケンケンが言いたかったのは、カメラは肉眼に比べてより多くの正確な情報を取り込むことができるという事なのじゃ」
M「じゃあ、肉眼で見ているのモノは正確じゃないの?」
K「そう来ると思ったのじゃ(笑)」
人間は、知覚の世界しか見えていない
M「また難しいタイトルじゃないですか(笑)大体「知覚」ってなんですか?」
K「「知覚」とは簡単に言うと、「動物が外界からの刺激を感じ取って、それを脳が意味づけすること」じゃよ」
M「よけい難しいです(笑)」
K「カメラと違って、人間は網膜に投影された像を、脳が全て認知しているのでは無いと言う事なのじゃ」
M「つまり、人間は一部のモノしか見てないということなの?」
K「そのとおりじゃよ。感情のフィルターを通して、脳が「知覚」したものしか見えていないのじゃ」
M「なるほど……だから撮影時に見えていなかったモノが、写真に写っているのか……」
人間は、関心のないモノは見えない
K「ここで簡単な実験をしてみよう。むーちゃんが毎日一番良く見るモノは何?」
M「うーーーん、そうですね……教室の時計かな……早く授業が終わらないかな……と(笑)」
K「むーちゃんらしいね(笑)。では、その時計のメーカは?文字盤の数字は1から12まで全部印字されてた?それから針の先は細くなってた?時計の周りには黒か金の縁取りがされてた?」
M「いきなり何なんですか?(笑)そんなのわかるわけ無いでしょう?」
K「だって、むーちゃん、毎日何度も教室の時計を一番良く見てるんでしょう?」
M「私の見ているのは、時計のメーカーやデザインではなく、時間なんです!」
K「まさしくソコじゃよ!むーちゃんにとっては、後何分で授業が終わるかということしか関心が無かったんでしょう?だから時計のメーカーやデザインは認知されていなかった……つまり、見えてなかったんじゃよ」
M「なるほど……つまりそれが、人間を含めた動物は、関心の無いものは知覚されずに見えていないと言う事なのか……」
K「そのとおりじゃ、人間は何かを感じたものしか見えないし、カエルは動くモノしか見えないのじゃ(笑)」
M「ええ!いきなり人間とカエルの比較ですか?(笑)」
知覚は五感にある
K「「知覚」というのは、視覚だけではなく五感にあるものだから、数分間録音した音を再生しても実感できるはずじゃよ」
M「それって、以前に自分の演奏したピアノの音を録音した時に実感しました。静かな環境で録音したつもりでしたが、後で聞いてみると、犬の鳴き声や、郵便配達のバイクの音や、遠くで救急車のサイレンの音まで録音されているんです」
K「むーちゃんはピアノの音に集中していたので、それらの雑音が全く知覚されずに聞こえていなかったのじゃなよ」
M「そういうことなんですね。それで結局は写真を撮る上で、どういう風に「知覚」を利用したら良いのですか?」
知覚に騙されないように、レンズの眼で見る
K「よくぞ聞いてくれたね!人間が関心のある物しか見えないと言う事は、感じ方や関心の対象をシフトすれば、違ったモノや今まで見えなかったモノが見えて来ると言う事ではないかな?」
M「なるほど……そうか……撮った後で、写真を見てからでないと見えなかったモノ(=関心がなかったモノ)が、撮影前に見えて来るということですね」
K「無意識的記憶をテーマにした「失われた時を求めて」という本を書いた、マルセル・プルーストというフランスの偉大な作家が素晴らしい言葉を残しているのじゃ」
M「なに?なに?」
K「真の発見の旅とは、新しい景色を探す事ではない。新しい目で見ることなのだ」
M「うわぁ~かっこいいですね。これでお金が無くても、心の旅に出る事が出来ますね」
K「まあ、そうとも言えるのじゃが(笑)要は、知覚でモノを見るのを止めて、レンズの眼になって「物理的な世界」を見るように意識するのじゃ」
M「そんな難しい言い方しないで、先入観や既成概念を捨てて写真を撮れば良いんでしょ?」
K「全くそのとおりなのじゃな(笑)見えた世界で満足せずに、自分から進んで見る事が写真を撮る上で大切なのじゃ」
むーちゃんが知ってしまった知覚
- 「見える」と「見る」は異なる。
- カメラは光学記録装置で、レンズの捉えた物理的世界を全て記録する。
- カメラは肉眼に比べて、より多くの正確な情報を取り込むことが出来る。
- 網膜に投影された像を、人間の脳は全て認知しているわけでは無い。
- 人間は、関心の無いモノ(知覚しないモノ)が見えない動物である。
- 自分が感じ方をシフトすれば、違った世界が見えて来る。
- 知覚に騙されずに、レンズの眼で見るクセを付ければ写真が変わる。